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「第5回 碩学舎賞」 審査結果と講評

経営学分野の若手研究者(博士後期課程の大学院生ならびに博士学位取得3年以内)による優れた研究論文を表彰する「第5回 碩学舎賞」の授賞論文をお知らせいたします。

審査委員会は、2017年12月24日(日)にヒルトンホテル大阪(大阪市北区)にて行いました。6名の審査委員の先生にお集まりいただき、応募された8編の論文について審査をいただきました。その結果、今回は一席の論文1編、二席の論文2編が選出される審査結果となりました。

表彰式は、2018年2月18日(日)に学士会館(東京都千代田区)にて開催いたしました。表彰論文の著者の皆様には副賞として、賞金および碩学舎オンラインジャーナル『SBJ』での表彰論文リリース、碩学舎からの著書出版の権利が与えられます。今回の受賞者の方々の応募論文は順次、『SBJ』として発行する予定です。

なお、「碩学舎賞」は今回より隔年開催とさせていただいております。次回(第6回)は、2019年度に開催予定です。

審査結果

一席 (1編)
「イノベーションを起こす消費者の情報取得行動に関する実証研究」(静岡大学学術院工学領域 准教授 本條晴一郎 氏)
二席 (2編)
「企業取得の動機がその後ののれん減損に与える影響」(佐賀大学経済学部 准教授 石井孝和 氏)
「レトリカル・ヒストリーによる意図せざる結果についての歴史的事例研究」(熊本学園大学商学部 専任講師 松尾健治 氏)

講評 (審査委員長 石原武政先生)

2年ぶりの開催となった今回の「碩学舎賞」では、マーケティング論や消費者行動論、経営史、財務会計といった幅広い領域からの論文応募があった。また、各論文のレベルも回を重ねるごとに上がってきていると実感している。その中から選ばれた今回の授賞論文は、既存研究レビューの手堅さや分析手法の面白さ、もたらされるインプリケーションの豊かさなどの点がとくに優れていたと審査委員会で評価されたものであった。

一席に選考された「イノベーションを起こす消費者の情報取得行動に関する実証研究」は、近年の研究蓄積が進むユーザー・イノベーション研究の領域において、明確な問題認識にもとづく仮説を設定し、その分析のために収集されたデータの豊富さと定量分析の手堅さを伴う論文であったことが高く評価された。もたらされた検証結果もパラドキシカルなもので、興味深いものであった。ただし、その検証結果をただ示すだけに終わらず、たとえば分析対象として最終的に絞り込まれた150人の消費者に対するその後の定性研究を続けるなどして当該研究領域のさらなる発展につながるような作業を求める、といった高い期待の声も審査委員からは出ていた。

二席については、研究手法の異なる2編の論文を選出することとなった。まず「企業取得の動機がその後ののれん減損に与える影響」は、日本においてのれんの減損処理が行なわれることがあまり多くない状況において、その少ない事例を丹念に集めて定量分析を行なったことに高い評価が与えられた。日本企業のコーポレート・ガバナンスについて考えるうえでも、多くの示唆がもたらされていると思われる。ただし、日本と条件が大きく異なる米国での会計基準から導出された仮説が設定されていることについては、著者にさらなる検討を求めたい。

もう1編の二席論文である「レトリカル・ヒストリーによる意図せざる結果についての歴史的事例研究」は、膨大な史料にもとづく研究であり、戦後の鐘紡の経営状況についての考察は研究上の価値が高いと評価された。ただし、本賞の文字制限(2万字)の都合もあるだろうが記述が粗いと感じる箇所がいくつもあり、貴重な史料を活かすという点では物足りなさを感じた審査委員も多かった。また、仮説を立てたうえで歴史を見るというスタイルに対しても、経営史研究の手法としての妥当性を慎重に議論する必要性が指摘された。

残念ながら選に漏れた応募論文の著者も含め、今回の碩学舎賞に応募された若手研究者の諸君には、ますますの研鑽を積んでいただき、次回の碩学舎賞にもぜひ積極的に応募いただくことを期待している。

碩学舎賞 審査委員

石原 武政(流通科学大学 特別教授、大阪市立大学 名誉教授)
嶋口 充輝(慶應義塾大学 名誉教授)
石井 淳蔵(神戸大学 名誉教授、流通科学大学 名誉教授)
加護野 忠男(甲南大学 特別客員教授、神戸大学 名誉教授)
古川 一郎(一橋大学 教授)
國部 克彦 (神戸大学 教授)

※ 本件のお問い合わせは、株式会社碩学舎「碩学舎賞」担当・清水までお願いいたします。
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